SUSANOO -スサノオ-

古事記より

アニメーション

建速須佐之男命

西東京市民映画祭2012

優秀賞受賞作品 (詳細)

 

まずはじめに書いておかなければいけない。

今回のこの作品『SUSANOO -スサノオ-』は、ご存知古事記が出典だが、作品として製作するにあたり、いくつかの変更点等を行っています。

これは、いわゆる神学や歴史学などの見地で作った動画ではなく、エンターテイメントとして語り継ぎたかったもの。

勿論、神学や歴史学を継承、そして志す方達にとって、神話とは特別な意味を持つ事でしょう。

しかしまた、自分のように無知な人間にとっても、やはり神話とは抱くべき宝物なのです。

そして、それらは学問と同じように語り継がれるべきであり、何よりも『親しまれるべき』であると思っています。

ギリシャ神話のように、聖書創世記のように、仏陀の物語のように、宗教の垣根を超え親しまれるはず。

この日本古来の物語に興味を持つきっかけになればと思います。

そう言う思いで、一つのファンタジーとして作りました。


大きな変更点としては、まず冒頭の川のくだりがあります。

川の上流より『箸(はし)』が流れて来たので、この先には人がいるに違いない、と思って進むと、そこに翁と媼が泣いていた。それを見てスサノオは、何故泣いているのだ?と尋ねた。

これが本当の流れです。

これは箸というものが、日本の文化の特徴に言及する非常に意味合いが隠されている部分と思うのですが、絵の質的に再現が困難であった事が一番の要因で大きく変更を行いました。自分としては申し訳ないと思いつつ。


それからスサノオの高天原たかまがはら)追放、これもアマテラスの怒りによってと変更(厳密にはアマテラスは怒ったと言うより怯えたのですね)。これは、物語全体を、アマテラスの『天の岩戸(あまのいわと)』伝承と同時進行の時間経過で描こうとの考えからです。『天の岩戸(あまのいわと)』伝承、即ち日食であったのではないかとの説が多いようです。


それから古事記では『クシナダヒメ』となっていますが、これは日本書紀の『クシイナダヒメ』を採用しました。

スサノオのヤマタノオロチ退治の解釈には諸説あります。

多々良、いわゆる産鉄民(鉄を作る人たち)を平定したことを表現したものだとも言われています。

ヤマタノオロチの腹部には常時赤い血が流れているのですが、これは鉄サビの赤だと言う説も。

退治の暁に、オロチの体内から現れる剣。スサノオの剣は折れ、かわりに出てくるこの剣が、産鉄民を平定してより強靭な鉄を手に入れた歴史表現であると。


本作品では、自然災害、あるいはそれを含む多くの災厄として、ヤマタノオロチを捉えたいと思いました。

かつて農耕(稲作)が普及した時代、それは『より安定的な』食料の供給を意味していた筈です。

しかしそれは同時に、洪水や嵐など自然災害との戦いの始まりでもあったわけです。

ここに、『ヤマタノオロチに毎年一人ずつさらわれる8人の娘たち』は、当時生け贄が行われていたことを、ヤマタノオロチ(即ち洪水等の自然災害)と重ね、灌漑技術などの発達で生け贄が廃止されていったとする捉え方があります。

日本書紀の記述による『クシイナダヒメ』とは奇稲田姫と表記され、稲田(稲作)を象徴しています。

今回の作品では、この『クシイナダ』の表現を使いたかったので、そちらの名前を使っています。


それから僕個人の創作もいくつか盛り込んであります。

例えばクシイナダヒメがスサノオに『なぜそんなに親身になって下さるのですか?』と尋ねるシーンは、本作品の核心にしたいと思い、また自分自身では一番好きなシーンでもあります。

英雄的に語られる事の多いスサノオですが、本作品では

『かつて私は与えられた天命を果たす事なく放棄した。しかし運命とは自らが選ばなければいけないということに気付いたのです』

と答えるように、スサノオ自身の心の変化、成長をする物語として語りたいと思いました。

高天原(たかまがはら)にいた頃のスサノオは暴風雨を象徴する神だったとする説もあるようです。

この作品の完成を前に、空き時間でネットサーフィンをしたら、スサノオを日本における『堕天使ルシファー』と捉える方もいて、大変面白かった。

色々な説、どれも興味深く面白いですが、一つだけ確実な事があります。

それは、幼い男の子とは母親を強く求めるものですし、成長期には張り裂けんばかりのフラストレーションがあります(笑)。男の子は成長とともに思慮深くなるもの。

運命とは単に天から与えられるプレゼントではなく、自分で選び続けなければいけないことに気付いていくものだと思います。

勿論、自然現象を象徴しての意味合いが濃いとは思いますが、しかし人格をもつ者として、とても見近くも感じます。

必ずしも優等生でなかったスサノオって、なんか面白いなと。


他にも変更点や創作部分が多々あります。

ですからこの作品を、(学術的な)古事記のヤマタノオロチ退治の全てと思うのは間違いです。

これはエンターテイメント。

興味を持つきっかけになってくれれば幸いです。


そうそう。

ヤマタノオロチの声なのですが、基本音声は○○の音を加工して作っています。

。。ここでそれを書くのはやめましょうかね(笑)。

そのうちブログででも書こうかと思います。


最後に、この作品は何か大きな力に後押しされていました。

ある日突然に留まっていられないほどに興味が深くなり、電光石火で作り始めました。

途中いろんな困難がありましたが、最たるものは『不の力』に襲われた事。

何かは解りませんが強大な悪意です。

激しい怒りに見舞われ、心身を制御するのがとても困難でした。

しかし作品中のスサノオが作れ、止まるな、完成せよと言うのです。

『不の力』は僕自身の中にあるヤマタノオロチだったのかもしれない。

完成間近になりその感覚は小さくなり、浄化されていったように思います。


作品というのは突き詰めれば終わりはありません。

いくらでも長く出来るし、いくらでも描きこめる。

しかし3月29日。

今日、今年一番に暖かいこの日をもって完成としたい。


2012年3月29日

声の出演 / ShiroTomura (語り、ほか) 

     

英語翻訳/Chika Tomura

  若葉 (クシイナダヒメ、ほか)